外国企業×国内ベンチャー企業のPMI支援
国内ベンチャー
プロジェクトの背景 ― 合弁の裏側にあった、見えない火種
今回のPMIプロジェクトは、海外企業と国内ベンチャーによる合弁事業として立ち上がりました。
スタート直後こそ順調に見えていましたが、実際には運営のあちこちで小さな行き違いや手戻りが積み重なっていました。
今回の海外側企業は、長い企業運営の歴史の中で数字とデータを基準に判断する文化を徹底してきた会社でした。
意思決定の背景には必ず定量的な根拠があり、役割や責任の範囲も文書で明確に整理されていました。決定事項が固まると、その瞬間からプロジェクトが前に進んでいく、そんな運営スタイルを持っていました。また、ガバナンスも重んじる文化で、売上や在庫、費用などの数字を日次での報告を徹底していました。
一方で、国内側の企業は家族経営から徐々に規模を拡大してきた背景もあり、判断の基準として“現場の経験”や“これまでの勝ちパターン”が大きな比重を占めていました。日々の業務は暗黙の了解を軸に安定して回っており、数値が揃っていなくても経験値としての「わかる」が十分に機能していたのが実態です。そのため、当然ながら日次での正確な数字の把握はしておらず、月を締めてやっと全容が見えてくる状況でした。
この違いが、合弁後の事業運営において徐々に摩擦を生んでいき、意思決定や現場オペレーションのスピード、そして信頼関係に影響を与えていました。
NUJPの役割は、この「今回の2社それぞれが持つ固有の文化」を丁寧につなぎ合わせ、
ひとつの組織として前へ進める基盤を整えることでした。
最初の取り組み ― 対話する環境の整備
異文化の統合は、システムや業務プロセスの統一からではなく、
まずは対話が成立する環境を整えるところから始まりました。
当初、海外側から発せられる発言やドキュメントは極めて合理的な内容でしたが、それまで独自の運営を行ってきた日本側にとってはその背景と目的が理解しにくい部分がありました。逆に日本側の報告は現場の洞察に富んでいたものの、海外側からすると「数字に根拠がない」と感じられる場面もありました。
こうした文化・背景の違いに加えて、クロスボーダーM&Aでよく生じる「言葉の壁」が更なる障壁を生みます。言葉では理解していても、小さなニュアンスの違いなどによって「理解が違う」と後からなるケースが多発していたのです。
象徴的だったのが、「Agreement」という言葉です。
海外側の Agreement は決定事項における「最終決定」の意味を持ちますが、日本語は「関係者の了解」といったニュアンスで捉えておりました。日本側からすると、「会議の場で話して、その場で了承を取ったからいいよね?」と思って進めていたものに対して、海外側は「最終合意のプロセスを経ていないのになぜ進めているのだ?」と大きく衝突したことがありました。
こうした言葉や理解のズレが、日常業務の中で大きな誤解を生んでいました。
そこで、週次のオンライン会議だけでなく、週次で丁寧に話し合う場を設けました。会議体の役割や目的を明確にし、議事録を日英両方で残すなど、「誤解の生まれにくい対話」を仕組みとして整えていきました。
統合の最初の一歩は、こうした対話の設計でした。
ガバナンスの再構築 ― 「何を誰が決めるのか」を明確に
対話が徐々に成立してきたところで次に向き合ったのが、ガバナンスです。
双方へのヒアリングを重ねるうちに、
「そもそも意思決定の構造が違う」
という根本的な課題が浮き彫りになっていきました。
海外企業は、数字を根拠に責任者が迅速に決断します。
一方、日本企業は関係者同士の合意形成を大切にし、言葉に出さない調整も含めて前に進めていきます。
実際に、このガバナンスへの意識の違いで何度も衝突が起きておりました。そして、その衝突が繰り返し起こると、双方の信頼関係の溝が深まってしまう。
こうした課題感と危機感から、我々は双方の意識の違いを丁寧に整理しながら、承認ラインや稟議プロセスを再構築し、判断の基準も明文化しました。
役割と責任を明確にしたことで、「誰がどこまで決めるのか」が整理され、判断のスピードが徐々に改善されていき、何よりも双方の信頼関係の溝が小さくなっていきました。
現場オペレーション改善 ― POSすらなかった店舗からの再構築
文化とガバナンスの整理が進んだ後、次に着手したのは「現場のオペレーション改善」でした。
当該ベンチャーはリアル店舗を構えていたのですが、足を運んでみると、現場のオペレーションはシステムやガバナンス統合とは程遠い現状が見えてきました。
一部の店舗ではPOSシステムがそもそも導入されておらず、紙やExcelで売上を管理していました。店舗ごとに締め処理のタイミングが異なり、在庫差異が頻繁に起き、本部に数字が揃うまで時間がかかっていました。
海外企業が求める「リアルタイムなデータ経営」の実現は遠い状況であったのです。
そこでPOS未導入の店舗にはゼロからシステムを導入し、既存の店舗も含めて共通仕様に統一しました。システム知識のない現場スタッフにもわかりやすいように、販売・返品・棚卸・締め処理などの業務フローを標準化し、数字が確実に本部へ上がるように仕組みを整えました。
こうして、現場の運営がようやく統一された形へと変わっていき、リアルタイムデータの取得と店舗ガバナンスの構築を行うことができました。
ERP統合 ― 同じ数字を見る組織へと進化
現場とガバナンスを整えた上で、ERP導入にも取り組みました。
ERPは単なるIT導入ではなく、「共通の事実を全員で共有するための基盤」です。
財務や在庫、購買、プロジェクト別損益、そして店舗売上といったデータが一つに統合されたことで、海外企業のデータドリブンな判断と、日本企業の現場の知見が、初めて同じテーブルで交わるようになりました。
数字が揃わずに判断ができない状態は徐々に解消し、経営会議の中身は大きく変わりました。議論の焦点は明確になり、判断が早くなり、双方が共通の目線で事業を語れるようになっていきました。
統合の成果 ― 異なる文化がひとつの方向へ向かい始めた
統合作業を続けるうちに、ガバナンスが整備され、POS・ERPの導入により数字の共有がリアルタイムで行われるようになりました。それに伴い、タイムリーに海外側にも日本側の運営状況が伝わるようになり、会議では実際のデータに基づいた議論が行われるようになりました。共通認識ができる数字があること、プロセスが明確になることによって、相互の摩擦が目に見えて減っていきました。
こうして、この合弁会社はようやく「ひとつの企業」として前に進み始める土台となりました。
終わりに
本プロジェクトとして、NUJPは異なる文化・組織が協業することを、「仕組み化」と「コミュニケーション」を通じて実現させていただきました。
PMIとは、異なる文化をどちらかに寄せることではなく、双方の強みを理解し、仕組みとして整え、同じ方向へ歩む体制をつくること。本ケースにおいては、どちらも失ってはいけない貴重な価値でした。それぞれの価値がシナジーとして発揮できる環境を整えることこそ、M&Aで最も大切な部分だと改めて感じたプロジェクトとなりました。